🎶夕べの星
『 天空の恋人館 』
16 白いめぐり逢い
24日になろうとする深夜零時前、
真尋は、神戸の夜景が一望できるエレベーターに乗った。
キャッスルの外は雪だった。
朝にはまた美しい雪景色がみられそうだ。
ペントハウスの扉が開いた。
オフホワイト一色の壁とベージュ色のソファーがマッチし、
心地よい白い空間を演出していた。
━━(ベス) ようこそ、ペントハウス琥珀へ。
お待ち致しておりました。
━━(高梨) [深々と黙礼]
二人とも、王家で働くに相応しい
国際プロトコール(儀礼)が身に付き、
献身的な魂の美しさが見事だった。
━━(真尋) お招きをいただき、光栄です。
━━(高梨) 真尋様、どうか王子をお助けくださいませ。
[ベスとともに、再度深々と黙礼し、消え去る]
……
ペントハウスには、ツーランドットの
「誰も寝てはならぬ」の曲が静かに流れていた。
いつのまにか、真っ白のスーツを纏った王子が、
弱々しい姿で立っていた。
ブルーグリーンの瞳は際だって美しく、
まさにこれこそ、シンデレラのお相手が
務まりそうな王子様だと、真尋は、我を忘れて魅せられていた。
王子の目から一筋の泪が…。
真尋は王子の前に進んだ。
白いハンケチで、涙をぬぐった。
[しばらく見つめあう二人…]
━━(王子) [口を動かしながら]
お優しい方ですね。有り難うございます。
最初から、みっともないところをお見せしてしまいました。
━━(真尋) いいえ、王子様の泪は美しいですわ。
こちらこそ、ご挨拶もまだでしたのに。
柚希 真尋と申します。はじめまして。
━━(王子) ゼロの王子です。
真尋さんは、スタンフォード大学で、
読唇術をマスターされたと伺っています。有難いです。
━━(真尋) いえ、ほんの、少しかじった程度で…。
ゆっくり話していただければ、何とかわかります。
[雪降る窓の外に目をやりながら]
━━(王子) 琥珀の謎、わかりましたか?
━━(真尋) 王子様は、守り神としての愛を求めてらっしゃいませんか。
大切なものを守り切れなかったことがおありじゃなかったでしょうか。
申し訳ありません。生意気なことを申しあげて。
━━(王子) その通りです、真尋さん。
よくお分かりになりましたね。
これで、胸のつかえがおりました。
その一言だけで十分です。
あと数か月で、私の脳機能はかなり低下してしまうらしい。
━━(真尋) お気の弱いこと。
未来の貴方さまの命を守ることも、大切ではないでしょうか。
ご自身への愛、人さまへの愛。
全女性に憧れられる王子様です。
の女性たちのために、幸せの鐘をついていただけませんか。
━━(王子) 真尋さん、お手伝いしていただけませんか?
一番近い席で…。
━━(真尋)… えっ、私などが…、ですか?
こんな一タレントでは、王子様の品格にさわりますわ。
[再度、見つめあう二人…]
真尋はおもむろに王子の手に触れた。
━━(真尋) 王子様。
━━(王子) 真尋さん。
王子は真尋の華奢な体をそっと引き寄せた。
月明かりが二人を優しく包み、一つにしていた。
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